急成長企業の事例から学ぶ大企業での健康管理システム導入実践ポイント

はじめに
事業の急成長は企業にとって喜ばしいことですが、同時に組織運営における様々な課題を生み出します。特に従業員の健康管理については、人数の増加に比例して複雑化し、従来の手法では対応しきれなくなることが少なくありません。
多くの成長企業では、「まずはシステム導入を」と考えがちですが、実際には健康管理システムの導入だけでは根本的な解決に至らないケースも多く見られます。重要なのは、システム導入と併せて運用体制そのものを段階的に見直し、組織の成長と健康管理ニーズの変化に合わせて最適化していくことです。
本記事では、従業員数400名のサービス業企業が、健康管理システムの導入とオンライン健康管理室の活用により、健康診断事後措置実施率80%達成と担当者負担50%削減を同時に実現した事例をご紹介します。この事例から、大企業での健康管理体制構築における実践的なポイントを学んでいきましょう。

事例企業の背景と直面していた課題
企業概要と成長の軌跡
今回ご紹介するA社は、従業員数400名のサービス業企業です。近年の事業拡大により、わずか3年間で従業員数が2倍近くに増加しました。この急速な成長は業績向上をもたらした一方で、組織運営における様々な課題を顕在化させることとなりました。
*本記事でご紹介する事例は、実際の成功事例をベースに、読者の皆様にご理解いただきやすいよう編集を加えております。
健康管理における課題の顕在化
人事担当者の負担増大
従業員数の急増に伴い、人事担当者の業務負荷は大幅に増加していました。特に健康管理関連業務については、健康診断の調整、結果確認、事後措置の実施、ストレスチェックの運営など、すべて手作業で行っており、担当者は慢性的な業務過多状態に陥っていました。
IT化検討の始まり
このような状況を受け、A社では業務効率化を目的としたIT化の検討を開始しました。当初は単純に「作業を楽にするためのツール導入」という発想でしたが、営業担当者との相談を通じて、より本質的な課題が明らかになってきました。
真の課題:運用対応力の不足
詳細なヒアリングを進める中で、A社が直面していた本質的な課題は、急速な従業員数拡大に対して、組織と従業員の健康管理需要への「運用対応力」が追いついていないことでした。具体的には以下の3つの領域で深刻な問題を抱えていました。
- メンタル不調者への対応不足
従業員数の増加と事業拡大のスピードについていけず、メンタル面での不調を訴える従業員が増加していました。しかし、適切な初期対応や継続的なフォロー体制が整っておらず、重篤化してから発覚するケースが頻発していました。
- 健康診断の事後措置の不徹底
健康診断は実施しているものの、要再検査や要精密検査の判定を受けた従業員に対する事後措置が十分に行われていませんでした。結果として、健康問題の早期発見・早期治療の機会を逸し、より深刻な健康問題につながるリスクを抱えていました。
- 休復職者対応の属人化
休職から復職に至るプロセスや、復職後の定期的なフォローについて、明確な仕組みが整備されておらず、担当者の経験と判断に依存した属人的な対応となっていました。これにより、対応の質にばらつきが生じ、復職者の再休職リスクも高い状態でした。
従来手法の限界
A社では月2回の産業医訪問体制を敷いていましたが、従業員数の増加により、限られた時間内ですべての健康課題に対応することが困難になっていました。また、紙ベースとExcelでの健康情報管理では、データの統合分析や迅速な情報共有に限界があり、予防的な健康管理や戦略的な施策立案が困難な状況でした。
段階的運用体制構築プロセス
A社では、課題の複雑性と組織への影響を考慮し、一気に運用体制を変更するのではなく、段階的なアプローチで健康管理運用の最適化を進めました。この慎重かつ計画的なプロセスが、最終的な成功の鍵となりました。
フェーズ1:システム基盤整備と専門職体制の見直し
健康管理システムの全面導入
最初のステップとして、健康管理システム(WellaboSWP)を導入しました。従来の紙ベースとExcel管理から脱却し、デジタル化による業務効率化と情報の一元管理を実現することが第一の目標でした。
システム利用経験のある産業医への交代
システム導入と同時に、A社では産業医の交代も実施しました。これは、従来の産業医がアナログな手法に慣れており、新しいシステムを活用した効率的な健康管理手法への適応が困難だったためです。
新たに迎えた産業医は、WellaboSWPの実際の運用経験が豊富で、システムの機能を熟知した専門家でした。WellaboSWP側からの紹介により、システムと産業医業務の両方に精通した最適な人材を確保することができました。
迅速なシステム習熟の実現
- 全機能の迅速な展開:
WellaboSWPの実運用経験がある産業医の指導のもと、段階的ではなく全機能を使い始めることができました - 豊富な操作支援:
WellaboSWPが提供する使い方動画が非常に充実しており、人事担当者もすぐにシステム操作に慣れることができました - 既存データの移行:
過去の健康診断データを可能な限りシステムに移行し、履歴の連続性を確保 - 産業医との密な連携:
システムを熟知した産業医の解説により、担当者の理解度に合わせて効率的にシステム活用を進展
フェーズ2:システム活用による運用方法の変革
データドリブンな健康管理運用への転換
システム導入後の半年間は、新しい産業医との連携を深めながら、従来のアナログ中心の運用から、システムを活用したデータドリブンな運用方法へと段階的に変革していく期間として位置づけました。
運用プロセスの標準化とデジタル化
- 健康診断結果の確認プロセス:
システム上での結果確認から事後措置指示までのフローを標準化し、漏れのない対応を実現 - 情報共有ルール:
産業医と人事担当者間での情報共有方法とタイミングの明確化 - 分析機能の活用:
部署別のストレスチェック集団分析や、ストレスチェック結果と長時間労働のクロス分析など、従来では見えなかった健康課題の可視化
運用負荷の増大とコスト問題の顕在化
運用の質は向上したものの、従業員からの健康相談ニーズの高まりを受け、月2回の産業医訪問に加えてエキストラ訪問も増やすことになりました。しかし、訪問スケジュールの調整が困難になり、さらにエキストラ訪問によるコストが大幅に増加してしまうという問題が新たに発生しました。
これらの課題により、月2回の定期訪問とエキストラ訪問だけでは対応しきれない限界も明確になりました。特に、急な健康相談への対応や、継続的なメンタルヘルスフォロー、休復職者への細やかなサポートなど、より頻繁で継続的な専門職サポートの必要性が浮き彫りになりました。
フェーズ3:オンライン健康管理室による運用体制の完成
平日毎日サポート体制の構築と訪問頻度の最適化
フェーズ2で明らかになった課題とコスト問題を解決するため、A社はオンライン健康管理室ウェラボの導入を決定しました。これにより、従来の月2回+エキストラ訪問に代わり、平日毎日の専門職サポートを受けられる体制が整い、同時に産業医訪問を月1回に効率化することができました。
統合的な健康管理運用体制の確立
- 日常的な健康相談への迅速対応:
従業員からの健康に関する相談に迅速かつ丁寧に対応できる体制を構築 - 継続的なメンタルヘルスフォロー:
ストレスチェック結果を踏まえた継続的かつ専門的なフォロー体制 - 復職者サポートの充実:
復職後の定期的な状況確認と必要に応じた専門的アドバイス - 産業医との効率的連携:オンライン健康管理室の専門職と産業医との情報共有により、月1回の訪問でも質の高い判断と指導を実現
システムとの完全統合による運用効率化
オンライン健康管理室ウェラボはWellaboSWPを使ったサービスであるため、すべての健康情報を一元管理しながら、複数の専門職(産業医・保健師)が連携してサポートを提供できる運用体制となりました。これにより、情報の分散や連携ミスを防ぎ、一貫性のある高品質な健康管理サービスの提供が可能になりました。
導入効果と具体的な成果
A社の段階的な運用体制構築は、想定を上回る成果をもたらしました。特に注目すべきは、担当者の負担軽減と健康管理の質向上を同時に実現できた点です。
数値で見る改善効果
健康診断事後措置実施率の完全達成
最も劇的な改善が見られたのは、健康診断の事後措置実施率です。従来の50%から80%へと改善されました。この背景には、システムによる対象者の自動抽出、オンライン健康管理室による継続的なフォロー、産業医との効率的な連携という新しい運用体制があります。
休復職者対応の標準化と完全実施
休復職者面談実施率と復職後の定期サポート実施率も、ともに100%を達成しました。従来は属人的で不安定だった対応が、システムとオンライン健康管理室による運用体制により標準化され、漏れなく実施できるようになりました。
担当者負担の大幅削減
人事担当者の健康管理関連業務にかかる工数は、50%削減を実現しました。これは単純な作業時間の短縮だけでなく、緊急対応や属人的な判断を要する業務の減少により、精神的な負担も大幅に軽減されました。
質的な改善効果
予防的健康管理体制の実現
システムによるデータ分析とオンライン健康管理室による実績報告により、組織的な健康問題の早期発見・早期対応が可能になりました。結果として、重篤な健康問題や長期休職に至るケースが大幅に減少しました。
従業員満足度とエンゲージメントの向上
健康に関する相談や不安に対して、迅速で専門的な対応を受けられるようになったことで、従業員の安心感と会社への信頼感が大幅に向上しました。アンケート調査では、健康管理体制に対する満足度が導入前の60%から90%以上に向上しました。
経営層の健康経営への理解深化
健康データの可視化により、経営層が従業員の健康状況や生産性(プレゼンティーズム)を客観的に把握できるようになりました。これにより、健康経営への関心と投資意欲が高まり、さらなる健康増進施策の検討が進んでいます。
運用面での革新
属人的対応から標準化された運用への転換
従来の属人的な対応から、システムとプロトコルに基づいた標準化された運用へと完全に変化しました。これにより、担当者が変わっても一定の品質を保った健康管理が可能になりました。
専門職間の連携最適化
産業医、オンライン健康管理室の専門職、人事担当者間での情報共有が円滑になり、チーム一体となった健康管理運用が実現しました。特に、緊急性の高いケースでの迅速な情報伝達と対応連携が大幅に改善されました。
データに基づく戦略的施策立案
蓄積された健康データを基に、エビデンスに基づいた健康施策の立案が可能になりました。例えば、ストレスチェックの集団分析の結果、特定の部署での問題点が明確となった場合、その部署に特化した対策を検討するなど、より効果的な施策実施が可能になりました。
大企業での応用ポイント
A社の成功事例から、大企業での健康管理体制構築における重要なポイントを抽出し、具体的な応用方法をご紹介します。
システム+専門職連携による運用最適化
システム単体では実現できない運用価値
A社の事例では、健康管理システムの導入だけでは解決できない運用課題が明確に示されました。特に、継続的なフォローや専門的な判断を要する業務では、システムと専門職の連携による運用体制が不可欠です。
大企業での専門職リソース最適化
大企業では複数の産業医や保健師を抱えて、潤な体制を構築している場合もありますが、それは一握りの企業で、多くの企業は人事担当者が専門職の協力を得ながら健康管理を行なっているため、全ての健康管理ニーズを満たす運用を実現することは困難です。オンライン健康管理室のような外部専門職リソースを活用することで、内部リソースを戦略的業務に集中させ、全体の運用効率を向上させることができます。
専門職間の運用連携強化
- 情報共有プラットフォームの活用:
システムを通じた迅速で正確な運用情報共有 - 役割分担の明確化:
内部専門職と外部専門職、企業担当者との運用上の役割を明確に定義 - 継続的なコミュニケーション:
定期的な運用状況の情報交換の実施
産業医との連携運用の最適化
システム活用に精通した産業医との連携価値
専門職のシステム活用スキル向上も重要な選択肢です。システムトレーニングや活用方法の指導により、既存リソースによる運用価値を最大化できます。
効率的な面談運用管理
システムの機能を活用することで、産業医面談や健康診断事後措置の運用効率性と質を大幅に向上させることができます。特に大企業では運用最適化の効果は非常に大きくなります。
データドリブンな健康管理運用
システムで分析するデータを基に、産業医がより戦略的で効果的な健康管理指導を行う運用体制を構築できます。これにより、従来の経験ベースから、エビデンスベースの健康管理運用へと進化させることができます。
規模に応じた運用体制のカスタマイズ
組織構造の運用体制への反映
大企業では複雑な組織構造を持つことが一般的です。事業部制、マトリックス組織、グループ会社制など、様々な組織形態に対応できる運用体制の柔軟性が重要です。
権限と運用責任の細分化
健康情報にアクセスできる人員の範囲と運用権限を細かく設定する必要があります。個人情報保護の観点から、必要最小限の権限設定と適切な運用責任の分担が重要です。
拠点間運用連携の考慮
複数拠点を持つ大企業では、拠点間での健康管理運用水準の統一と、それぞれの特性に応じた運用カスタマイズのバランスが重要です。本社による運用統括管理と各拠点での自律的運用の最適な組み合わせを検討することが必要となることもあります。
まとめ・今後の健康管理体制構築に向けて
健康管理システム選定における重要な視点
健康管理システム導入を検討される企業では、システムの機能面だけでなく、実際の運用が充足するかという視点が重要です。現在の運用体制に不安がある、または将来的に運用リソースが不足する可能性がある企業では、運用サポート、特に実行支援が充実したソリューションを選択することで、真の成果につながります。
単なるツールの導入ではなく、健康管理運用体制そのものの変革と捉え、システム・人・プロセスの総合的な最適化を図ることが、持続可能で効果的な健康経営の実現につながります。
WellaboSWP+オンライン健康管理室での統合運用ソリューション
WellaboSWPは、単なる健康管理システムではなく、オンライン健康管理室ウェラボにより、真の健康管理運用体制構築をサポートします。システムによる効率化と専門職による質の高いサポートを組み合わせることで、A社のような劇的な運用改善を実現することができます。
執筆・監修
WellaboSWP編集チーム
「機能する産業保健の提供」をコンセプトとして、健康管理、健康経営を一気通貫して支えてきたメディヴァ保健事業部産業保健チームの経験やノウハウをご紹介している。WellaboSWP編集チームは、主にコンサルタントと産業医・保健師などの専門職で構成されている。株式会社メディヴァの健康経営推進チームに参画している者も所属している。