健康経営を中小企業で実践する5つのステップ:低コストで始める健康経営優良法人への道筋

はじめに

「健康経営は大企業だけのもの」「うちのような中小企業には予算も人手もない」——そんな風に考えていませんか?実は、健康経営は企業規模に関わらず実践できる取り組みで、すでに健康経営優良法人中小企業部門の認定を受けている企業数は2万社に迫ろうとしています。従業員一人ひとりの健康状態が会社全体に与える影響が大きい中小企業だからこそ、健康経営に取り組むメリットは計り知れません。

健康経営の真の目的は、認定や資格を取得することではありません。経済産業省では「健康経営」を「従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践すること」と定義し、「企業理念に基づき、従業員等への健康投資を行うことは、従業員の活力向上や生産性の向上等の組織の活性化をもたらし、結果的に業績向上や株価向上につながると期待される」としています。つまり、従業員の健康を支援することで、組織の活性化や企業価値向上を実現することが本来の目的です。健康企業宣言や健康経営優良法人認定は、その取り組みを対外的に示す手段の一つであり、認定取得自体がゴールではないことを忘れてはいけません。

本記事では、限られたリソースでも無理なく始められる健康経営の実践方法を、5つのステップに分けて詳しく解説します。さらに、健康経営優良法人認定を目指すための具体的な道筋も示しますので、「何から始めればいいかわからない」とお悩みの経営者や人事総務担当者の方は、ぜひ参考にしてください。

目次

はじめに

1. 健康経営が中小企業にもたらすメリット

従業員満足度向上による離職率低減

生産性向上の具体的効果

企業イメージ向上による採用力強化

健康経営優良法人認定によるメリット

2. 健康経営を始める前に押さえておきたい基本知識

まず理解したい「健康経営優良法人」への道のり

健康企業宣言とは?

あなたの会社はどの制度を使う?加入保険者の確認方法

中小企業だからこそ大切な「段階的アプローチ」

3. 健康経営を中小企業で実践する5つのステップ

ステップ1: 経営層のコミットメントと健康企業宣言の準備

ステップ2: 健康企業宣言Step1の実施と銀の認定取得

ステップ3: 低コストで始められる基本施策の実施

ステップ4: 健康経営優良法人認定に向けた法定要件の整備

ステップ5: 健康経営優良法人認定への申請と継続的改善

4. 成功事例:山田製作所の健康経営導入ストーリー

導入のきっかけ:危機感が後押しした決断

健康企業宣言への第一歩

データ管理の工夫

実施結果レポート作成と銀の認定取得

1年後の変化と成果

今後の展望

5. 中小企業が健康経営で注意すべきポイント

健康企業宣言は加入している健康保険組合により制度が異なる

銀の認定取得には6ヶ月間の取り組み期間と80点以上の評価が必要

無理をしない段階的な取り組み

最初はExcel管理から始めて、業務が増えてきたらシステム化を検討

従業員の理解と協力の重要性

継続性を重視した施策選択

外部リソースの活用方法

まとめ

1. 健康経営が中小企業にもたらすメリット

従業員満足度向上による離職率低減

中小企業にとって人材の確保と定着は重要な経営課題です。健康経営に取り組む企業では従業員の離職率低減効果が報告されています。従業員が「会社が自分の健康を大切にしてくれている」と感じることで、企業への愛着が深まり、長期的な雇用関係の構築につながります。

生産性向上の具体的効果

健康な従業員は集中力が高く、病欠も少なくなります。経済産業省では「健康経営」について、「従業員等への健康投資を行うことは、従業員の活力向上や生産性の向上等の組織の活性化をもたらし、結果的に業績向上や株価向上につながると期待される」と定義しています。中小企業においても、健康経営への取り組みにより従業員の健康状態改善と生産性向上が期待できます。余談ですが、筆者が産業医として訪問している企業のとある店長が「今日は従業員が元気だなと感じる日ほど売り上げが良い」と仰っていたことがあり、健康経営と業績向上には密接な関係があるのだなと感じたことを思い出します。

企業イメージ向上による採用力強化

現在の求職者、特に若い世代は企業の福利厚生や働きやすさを重視する傾向があります。健康経営に取り組む企業として認知されることで、優秀な人材の採用において他社との差別化を図ることができます。また、既存従業員が自社を誇りに思い、知人への紹介につながるケースも多く見られます。

健康経営優良法人認定によるメリット

健康経営優良法人に認定されると、以下のような具体的なメリットを享受できます:

  • 金融機関からの融資優遇
    日本政策金融公庫の「働き方改革推進支援資金」において特別利率での融資や、株式会社日本政策投資銀行(DBJ)の「DBJ健康経営格付」による融資条件の優遇があります
  • 公共入札での加点
    自治体の入札で加点評価を受けられる場合があります
  • 保険料の割引
    一部の損害保険会社で団体保険料の割引制度があります
  • 企業ブランディング効果
    経済産業省のホームページに社名が掲載され、認定ロゴマークを広報活動に活用できることで、対外的な信頼性向上につながります
  • 人材確保の優位性
    健康経営優良法人認定により、求職者への企業アピール力が向上します
  • 投資家からの評価向上
    ESG投資の観点から、健康経営の取り組みが投資家による評価向上につながる可能性があります

2. 健康経営を始める前に押さえておきたい基本知識

まず理解したい「健康経営優良法人」への道のり

健康経営に取り組むと決めた多くの中小企業が目指すのが「健康経営優良法人」の認定です。これは国が認める制度で、優良な健康経営を実践している企業を社会に示すものです。

しかし、いきなり健康経営優良法人に申請することはできません。その前に「健康企業宣言」という制度に参加する必要があります。

健康企業宣言とは?

健康企業宣言は、企業が「従業員の健康づくりに取り組みます」と宣言し、実際に6ヶ月間の健康づくり活動を行う制度です。全国健康保険協会(協会けんぽ)や各健康保険組合が実施しており、参加費用は無料です。

認定までの基本的な流れ:

  1. 健康企業宣言に参加(6ヶ月間の取り組み)
  2. 銀の認定を取得(実施結果80点以上)
  3. 健康経営優良法人に申請(年1回、通常8-10月頃)

重要なポイントは、健康企業宣言の「銀の認定」を先に取得することが、健康経営優良法人認定の必須条件になっていることです。

出典:ACTION!健康経営(https://kenko-keiei.jp/

あなたの会社はどの制度を使う?加入保険者の確認方法

健康企業宣言は、加入している健康保険によって表現や制度が異なります。まずは手元の健康保険証を確認してみましょう。

協会けんぽ加入企業の場合:
健康保険証に「全国健康保険協会」と記載されている企業が対象です。東京都内の事業所であれば、協会けんぽ東京支部の健康企業宣言制度に参加することになります。

東京以外の事業所の場合:
各都道府県支部で制度名や詳細が異なります(多くは「健康宣言」という名称)。該当する都道府県支部にお問い合わせください。

その他の健康保険組合加入企業の場合:
健康保険証に「○○健康保険組合」と記載されている場合は、その組合独自の制度に参加することになります。制度名や要件が協会けんぽと異なる場合があるため、直接お問い合わせください。

中小企業だからこそ大切な「段階的アプローチ」

大企業と違い、中小企業には限られた人員と予算しかありません。だからこそ、無理をしない段階的な取り組みが成功の秘訣です。

推奨する進め方:

  • 第1段階: 健康企業宣言Step1で基礎固め(6ヶ月)
  • 第2段階: 銀の認定取得で健康経営優良法人への資格獲得
  • 第3段階: 健康経営優良法人認定で企業価値アップ

一度にすべてを完璧にやろうとせず、できることから着実に積み重ねていく姿勢が重要です。

注意事項:
本記事では東京都内の協会けんぽ加入企業を主な対象としています。他の地域や健康保険組合では制度が異なる場合がありますので、詳細は各保険者にご確認ください。

3. 健康経営を中小企業で実践する5つのステップ

以下の5つのステップで、段階的に健康経営を進めていきます

【ステップ1〜3】健康企業宣言Step1(銀の認定取得)に必要

  • ステップ1: 経営層のコミットメントと健康企業宣言の準備
  • ステップ2: 健康企業宣言Step1の実施と銀の認定取得
  • ステップ3: 低コストで始められる基本施策の実施

【ステップ4〜5】健康経営優良法人認定に必要

  • ステップ4: 健康経営優良法人認定に向けた法定要件の整備
  • ステップ5: 健康経営優良法人認定への申請と継続的改善

ステップ1: 経営層のコミットメントと健康企業宣言の準備

このステップの目的:
健康経営への取り組み方針を明確にし、健康企業宣言への参加準備を整える

経営者自身の健康意識改革
健康経営の成功には、経営者自身が健康の重要性を理解し、率先して健康管理に取り組む姿勢が不可欠です。まず経営者が定期的な運動や健康診断受診を徹底し、従業員に「健康は経営課題である」というメッセージを発信しましょう。喫煙されている方はこれを機に禁煙にもチャレンジするとよいでしょう!

健康経営方針の明文化
会社として健康経営に取り組む方針を明文化し、社内に掲示することが重要です。「従業員の健康保持・増進を通じて、生産性向上と企業価値向上を実現する」といった基本方針を定め、全従業員に周知します。

担当者の選定
専任の担当者を置くことが理想ですが、中小企業では人事総務担当者が兼任するケースが一般的です。重要なのは、責任者を明確にして推進体制を整えることです。

加入している健康保険組合の確認
自社がどの健康保険組合に加入しているかを確認しましょう。協会けんぽの場合は各都道府県支部、健康保険組合の場合は各組合が健康企業宣言を実施しており、それぞれ制度の詳細が異なります。

健康企業宣言Step1への参加申請の準備
健康企業宣言Step1への参加には、所定の申請書類の提出が必要です。加入している保険者のウェブサイトから必要書類をダウンロードし、申請準備を進めましょう。

ステップ2: 健康企業宣言Step1の実施と銀の認定取得

このステップの目的:
健康企業宣言に正式参加し、6ヶ月間の健康づくり活動を通じて銀の認定を取得する

健康企業宣言Step1への参加申請
「健康企業宣言チェックシートStep1」で自社の健康課題を確認し、「健康企業宣言Step1申込書」を健康保険組合等に提出します。承認されると「宣言の証」が交付され、正式に健康企業宣言に参加したことになります。

6ヶ月間の健康づくり取り組み実施
宣言日から6ヶ月間、継続的に健康づくりに取り組む必要があります。健康企業宣言Step1では、必須分野として「健診等」「健診結果の活用」「健康づくりのための職場環境」「禁煙」の4分野への取り組みが求められます。さらに、選択分野として「食」「運動」「心の健康」「性差に応じた健康課題」「睡眠」「歯・口腔」「飲酒」の7分野から3分野以上を選択して取り組みます。

実施結果レポートの作成
6ヶ月間の取り組み実績を「健康企業宣言実施結果レポートStep1」にまとめます。このレポートは上記の必須4分野と選択3分野の計7分野で構成された18項目で評価され、各項目に異なる配点が設定されています。自己採点で合計80点以上を獲得することが銀の認定取得の条件となります。各項目について具体的な実施内容とエビデンス(証拠資料)を用意する必要があります。

銀の認定申請と認定証取得
実施結果レポートの採点が80点以上になったら、銀の認定申請を行います。健康保険組合等での審査を経て、承認されれば「健康優良企業 銀の認定証」が交付されます。

銀の認定取得のメリット
銀の認定を取得すると、以下のメリットがあります:

  • 健康優良企業ロゴマークの使用権利
  • 金融機関からの融資優遇制度の利用
  • 企業の対外的な信頼性向上
  • 健康経営優良法人認定申請の資格取得

ステップ3: 低コストで始められる基本施策の実施

このステップの目的:
健康企業宣言Step1で必要な取り組みを実践し、銀の認定を目指す

健康企業宣言に参加した後は、6ヶ月間の具体的な健康づくり活動を行います。中小企業でも無理なく実施できる施策から始めましょう。

0円ジム(職場での運動推進)
最も取り組みやすいのが職場を「0円ジム」として活用する運動推進制度です。朝礼後の5分間ラジオ体操、階段の利用を促すポスター掲示、昼休みの散歩推奨、会議室での簡単なストレッチタイムなど、既存の施設を活用した運動機会を提供します。歩数計を配布したり、部署対抗のウォーキングイベントを開催したりすることで、従業員の参加意欲を高めることができます。

禁煙サポート
禁煙外来の受診費用補助や、禁煙成功者への報奨金制度など、従業員の禁煙をサポートする制度を設けます。喫煙場所の縮小や分煙の徹底も含まれます。

健康情報の定期提供
月1回程度、季節に応じた健康情報を社内報やメールで配信します。熱中症対策、インフルエンザ予防、生活習慣病予防など、タイムリーな情報提供が効果的です。

労働時間管理の徹底
長時間労働は健康リスクを高める要因です。勤怠管理を徹底し、残業時間の適切な把握と管理を行います。必要に応じて業務の見直しや人員配置の調整も検討しましょう。

メンタルヘルス相談窓口の設置
外部の Employee Assistance Program(EAP)サービスを活用したり、産業カウンセラーとの連携により、従業員が気軽に相談できる窓口を設置します。

ステップ4: 健康経営優良法人認定に向けた法定要件の整備

このステップの目的:
健康経営優良法人認定で求められる法的要件を満たす

銀の認定取得後、健康経営優良法人認定に向けて以下の法定要件を確実に満たしましょう。

ストレスチェックの確実な実施
従業員50人以上の事業場では年1回のストレスチェック実施が義務です。50人未満は現在努力義務ですが、2028年までに従業員規模に関わらず全企業で義務化となることが決定されているため、今から準備を始めましょう。(ストレスチェック実施の進め方についてはこちら

長時間労働者への適切な対応
月80時間超の残業をした従業員から申し出があった場合に医師の面談実施が義務です。労働時間の正確な把握と記録保存(労働時間、面談記録ともに5年)を徹底しましょう。

健康データの効率的管理
健康診断結果やストレスチェック結果を体系的に管理し、自社の健康課題を把握します。従業員の健康診断を一つの医療機関で実施している場合には、結果をデータ納品とすることでデータ化の手間を省くこともできます。また、健康保険組合から発行される「健康スコアリングレポート」や「事業所健康診断シート」も活用することができます。これらのレポートでは、自社の健康診断結果を同業他社と比較でき、医療費の傾向や健康リスクの高い年代・項目などが一目で分かります。レポートを基に優先すべき健康課題を特定し、効果的な施策を計画することで、限られた予算を最大限に活用できるので、手元にない場合は健康保険組合に問い合わせてみるようにしましょう。

ステップ5: 健康経営優良法人認定への申請と継続的改善

このステップの目的:
健康経営優良法人認定を取得し、持続可能な健康経営を確立する

いよいよ最終段階として、健康経営優良法人認定への申請を行います。

認定要件の確認と申請準備
健康経営優良法人2025(中小規模法人部門)は5つの分野で評価されます。経営理念・方針、組織体制、制度・施策実行(健康課題把握、土台づくり、具体的対策)、評価・改善、法令遵守の各分野で必要項目数を満たす必要があります。

既存の取り組みとの対応確認
健康企業宣言Step1で既に多くの要件を満たしています。定期健診受診率向上、運動促進(朝の体操、階段利用)、メンタルヘルス対応(相談窓口)、喫煙対策などが該当します。

申請と認定後の継続
毎年8月〜10月頃の申請期間に必要書類を提出し、翌年3月に認定発表されます。認定は毎年更新が必要なため、継続的な改善サイクルを構築することが重要です。

4. 成功事例:山田製作所の健康経営導入ストーリー

登場人物紹介

山田社長:
従業員30名の製造業「山田製作所」の代表取締役。家族経営から成長してきた会社の二代目で、従業員を家族のように大切に思っている。最近、従業員の高齢化と体調不良による欠勤の増加に悩んでいた。

佐藤部長:
総務部長として勤続15年。人事労務全般を担当しており、山田社長から健康経営推進の責任者に任命された。几帳面な性格で、新しい取り組みにも前向きに挑戦する。

導入のきっかけ:危機感が後押しした決断

ある月曜日の朝、山田社長は憂鬱な気持ちで出社していました。先週だけで3名の従業員が体調不良で欠勤し、特に製造ラインの中核メンバーである田中さん(58歳)が腰痛で1週間休んでいたためです。

「このままでは納期に間に合わない…」

佐藤部長との定例会議で、山田社長は率直に悩みを打ち明けました。

「佐藤さん、最近従業員の体調不良が多くて心配なんだ。年齢のこともあるけれど、何か会社としてできることはないだろうか?」

「実は私も同じことを考えていました。先日、商工会議所のセミナーで『健康経営』という取り組みを知ったんです。従業員の健康管理を会社が積極的にサポートすることで、生産性向上や離職率低減につながるそうです」

山田社長の目が輝きました。「それは興味深いな。詳しく調べてくれるか?」

健康企業宣言への第一歩

佐藤部長は早速、健康経営について情報収集を開始しました。協会けんぽのウェブサイトで「健康企業宣言」という制度を発見し、これが健康経営優良法人認定への第一歩であることを知りました。

「社長、健康企業宣言というものがあります。まずはこれから始めて、段階的に健康経営を進めていけるようです」

「費用はどのくらいかかるんだ?」

「基本的な取り組みなら、大きな初期投資は必要ありません。まずは従業員の意識改革と、既存の制度の活用から始められます」

山田社長は即決しました。「よし、やってみよう。佐藤さん、君に任せる」

6ヶ月間の取り組み実施
2024年4月、山田製作所は健康企業宣言Step1に参加しました。佐藤部長は「宣言の証」を工場の入口に掲示し、全従業員に健康経営への取り組みを発表しました。

取り組み1:巡回健診の導入による健康診断受診率100%の達成(必須:健診等)
全従業員が健康診断を受診できるよう、巡回検診を導入しました。これまでは各自で近隣の病院に受診してもらっていましたが、業務の都合で受診できない従業員がいました。会社に 健診車が来ることで、業務時間内に全従業員が受診でき、受診率100%を達成することができました。結果は従業員には紙面で、会社には紙とデータでもらうことができ、分析にも使えそうです。

取り組み2:朝の体操の導入(選択:運動)
毎朝の朝礼前に、5分間のラジオ体操を開始しました。最初は恥ずかしがっていた従業員も、山田社長自らが率先して参加することで、徐々に全員が参加するようになりました。朝礼前に体操を取り入れたことで、朝礼中の従業員の受け答えが心なしか元気になったように山田社長は感じています。

取り組み3:階段利用の推奨(必須:健康づくりのための職場環境)
2階の事務所への階段に「健康のために階段を使いましょう」のポスターを掲示し、エレベーターの使用を控えるよう呼びかけました。社長も部長も率先して階段を使うようにしました。

取り組み4:禁煙サポート(必須:禁煙)
喫煙者が多かった山田製作所では、禁煙外来の受診費用を会社が半額負担する制度を導入しました。3名の従業員が禁煙に成功しました。実は山田社長も喫煙者だったのですが、社員に示しがつかないと佐藤部長に肩を押され、会社の神棚にタバコとライター置いて禁煙に取り組んでいます。

取り組み5:健康情報の提供(必須:健康づくりのための職場環境)
佐藤部長が月1回、季節に応じた健康情報を社内掲示板に掲載しました。「夏の熱中症対策」「インフルエンザ予防法」など、実用的な情報が好評でした。

取り組み6:メンタルヘルス相談窓口の設置(選択:心の健康)
従業員30名未満のため法定のストレスチェックは義務ではありませんでしたが、任意でストレスチェックを実施し、相談窓口も設置しました。

取り組み7:睡眠改善啓発(選択:睡眠)
良質な睡眠の重要性について啓発資料を配布し、残業時間の管理を徹底することで従業員の睡眠時間確保を支援しました。啓発資料に書いてあった睡眠時無呼吸にあてはまるかもしれないと自身で気がつき、医療機関を受診しCPAPを導入されたことで日中のパフォーマンスが大幅に上がった従業員もいます。

データ管理の工夫

佐藤部長は、健康診断結果や取り組み実績をExcelで管理し始めました。健康企業宣言Step1の必須4分野と選択3分野の計7分野の実施結果レポートを作成するため、各取り組みの実施状況を詳細に記録しました。最初は手間がかかりましたが、徐々に従業員の健康状態の変化が見えるようになり、「データで会社の状況が把握できるのは面白い」と感じるようになりました。

業務量が増えてきた際には、「将来的には健康管理システムの導入も検討してみたい」と山田社長に相談しました。

実施結果レポート作成と銀の認定取得

6ヶ月間の取り組みを終えた10月、佐藤部長は健康企業宣言実施結果レポートStep1の作成に取りかかりました。必須4分野と選択3分野の計7分野について、各取り組みの実施内容と成果を詳細に記録し、写真やデータも添付しました。

  • 巡回検診の導入により健康診断受診率:85% → 100%に向上
  • 朝の体操参加率:90%以上を維持
  • 禁煙成功者:3名
  • 健康情報提供:月1回を確実に実施
  • メンタルヘルス相談窓口:設置・周知完了
  • 睡眠改善啓発:残業時間管理の徹底により実施

自己採点の結果、合計85点を獲得できることがわかりました。

12月、ついに「健康優良企業 銀の認定証」が届きました。山田社長と佐藤部長は、工場の入口に認定証を誇らしげに掲示しました。

1年後の変化と成果

健康経営開始から1年が経過した頃、山田製作所には明らかな変化が現れていました:

  • 体調不良による欠勤の減少:
    従業員の健康意識向上により、体調管理が改善
  • 従業員満足度の向上:
    社内アンケートで「会社が健康を大切にしてくれている」と感じる従業員が大幅に増加
  • 生産性の改善:
    製品の品質向上と納期遵守率の改善が見られるように
  • 採用への効果:
    健康経営優良法人のロゴを求人広告に掲載したところ、応募者数が増加

今後の展望

山田社長と佐藤部長は、今後の展望について話し合いました。

「佐藤さん、本当にありがとう。従業員の健康が改善されただけでなく、会社全体に良い雰囲気が生まれたね」

「ありがとうございます。今年度は健康経営優良法人の認定も目指してみたいですし、業務効率化のために健康管理システムの導入も本格的に検討してみたいと思います」

「そうだね。段階的に取り組んでいけば、もっと良い会社にできそうだ」

山田製作所の健康経営は、これからも続いていきます。

5. 中小企業が健康経営で注意すべきポイント

健康企業宣言は加入している健康保険組合により制度が異なる

健康企業宣言は全国統一の制度ではありません。協会けんぽの各都道府県支部や、企業が加入している健康保険組合によって、制度の詳細や申請方法が異なります。まずは自社がどの保険者に加入しているかを確認し、該当する制度の内容を正確に把握することが重要です。

銀の認定取得には6ヶ月間の取り組み期間と80点以上の評価が必要

健康企業宣言Step1に参加してから銀の認定を受けるまでには、最低6ヶ月間の継続的な取り組みが必要です。また、実施結果レポートで80点以上の評価を得る必要があるため、計画的かつ着実に取り組むことが求められます。

無理をしない段階的な取り組み

中小企業にとって最も重要なのは、無理をしないことです。「健康企業宣言Step1 → 銀の認定 → 健康経営優良法人認定」という段階を踏み、一つひとつクリアしていくアプローチが成功の鍵となります。

最初はExcel管理から始めて、業務が増えてきたらシステム化を検討

健康データの管理は、最初はExcelで十分です。健康診断結果やストレスチェック結果を手作業で管理することから始め、データ量が増えたり業務が複雑になったりしてきた段階で、専用の健康管理システムの導入を検討しましょう。

従業員の理解と協力の重要性

健康経営の成功には従業員の理解と協力が不可欠です。取り組みの目的や効果を丁寧に説明し、従業員が主体的に参加できる環境を整えることが重要です。経営者自らが率先して健康管理に取り組む姿勢を示すことも効果的です。

継続性を重視した施策選択

短期間だけ実施して終わりではなく、継続的に取り組める施策を選択することが重要です。負担が大きすぎる取り組みは長続きしません。従業員の負担を考慮し、無理なく続けられる範囲で施策を設計しましょう。

外部リソースの活用方法

中小企業では人的リソースが限られているため、外部の専門機関やサービスを上手に活用することが重要です。産業医、保健師、健康保険組合の保健事業、自治体の健康支援サービスなど、利用できるリソースを積極的に活用しましょう。

まとめ

健康経営は決して大企業だけのものではありません。本記事で紹介した5つのステップを踏むことで、中小企業でも無理なく健康経営を実践し、健康経営優良法人認定を目指すことができます。

ただし、忘れてはならないのは、健康経営の本来の目的は従業員の健康支援を通じた組織の活性化と企業価値向上の実現であるということです。健康企業宣言の認定や健康経営優良法人の資格取得は、その取り組みを社会に示す手段の一つであり、認定取得自体が最終目標ではありません。

健康経営優良法人取得を目的とするのではなく、あくまで企業理念達成のための健康経営推進の手段とすることが肝要です。

執筆・監修
WellaboSWP編集チーム

「機能する産業保健の提供」をコンセプトとして、健康管理、健康経営を一気通貫して支えてきたメディヴァ保健事業部産業保健チームの経験やノウハウをご紹介している。WellaboSWP編集チームは、主にコンサルタントと産業医・保健師などの専門職で構成されている。株式会社メディヴァの健康経営推進チームに参画している者も所属している。