健康経営優良法人認定取得のメリットと企業価値向上

はじめに:健康経営優良法人認定制度の概要
健康経営優良法人制度は、特に優良な健康経営を実践している大企業や中小企業を「見える化」することで、従業員や求職者、ステークホルダーなどから社会的な評価を受けることができる環境を整備することを目的として、日本健康会議が認定する顕彰制度です。現在は大企業を対象とした「大企業法人部門」と、中小企業を対象とした「中小企業法人部門」があります。
2025年の3月に、「健康経営優良法人2025」として「大規模法人部門」に3,400法人(上位500法人には「ホワイト500」の冠を付加)、「中小規模法人部門」に19,796法人(上位500法人には「ブライト500」、501~1500位法人には「ネクストブライト1000」の冠を付加)が認定されました。健康経営優良法人制度が始まって、今回が9回目の認定でしたが、大企業、中小企業ともに認定法人数は右肩上がりに増加しています。
「健康経営」とは、従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践することです。企業理念に基づき、従業員等への健康投資を行うことは、従業員の活力向上や生産性の向上等の組織の活性化をもたらし、結果的に業績向上や株価向上につながることが期待されます。本記事では、健康経営優良法人認定を取得することで企業がどのようなメリットを得られるのか、特に企業価値向上の観点から解説します。また、弊社が運営する健康管理システムWellaboSWPやオンライン健康管理室ウェラボが認定取得をどのようにサポートするのかについても紹介していきます。
健康経営が企業内部にもたらすメリット
① 従業員の健康増進と生産性向上
健康経営を担う多くの企業が目指すところは、従業員の生産性やエンゲージメントの向上であり、それを目的として企業は従業員の健康管理や健康増進に積極的に取り組むことになります。(筆者としては生産性やエンゲージメントの向上が、業績向上だけではなく、例えば企業理念の達成に向けてどのような文脈が今後描かれていくのか、あるいは描かれているのかということに大変興味を持っているのですが本旨からズレるので、別の記事で言及します。)
経済産業省の「健康経営の推進について」によると、以下の3点がこれまでにわかってきた健康経営推進のメリットです。
- 健康経営を経営理念に掲げて施策を実施することは、企業の利益率にプラスの影響をもたらす
- 健康経営施策の実施により、各種健康診断の受診率が上昇し、次に健康状態そのものの改善につながる
- 問診結果スコアの改善によって利益率が高まる
また、健康経営度調査のスコアが高い企業ほど、相対的に高いリターンを低いリスクで獲得できる傾向が見られるというデータもあります。健康経営の取り組みは、投資としての側面からも注目に値します。
② 離職率低下と人材確保
超高齢化社会の中、今後も日本の労働人口は減少し、労働者不足の中での人材確保は企業にとって大きな課題です。健康経営優良法人認定を受けることで、従業員の健康に配慮する企業であることをアピールでき、優秀な人材の確保につながります。実際、採用面接の場では応募者からの質問で健康経営についての質問があると耳にすることがあります。事実、就活生および就職を控えた学生の親に対するアンケート調査では、就活生は「福利厚生の充実度」・「従業員の健康や働き方への配慮」が就職先に望む条件として4割を超え、学生の親では「従業員の健康や働き方への配慮」・「雇用の安定」が4割以上を占める結果となっています。個人的にはやりがいよりも上位に来ていることに衝撃を受けた結果でした。また、以下の図にお示ししますように、健康経営が就職の決め手になると答える就活生が60%を超えており、健康経営の取り組みと採用には密接な関係があることがわかります。
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③ 組織活性化と職場環境改善
健康経営の実践は、単に従業員の健康状態を改善するだけでなく、職場の活性化にも大きく貢献します。健康経営施策をうまく運用することで職場内のコミュニケーションが活発になるという事例も多々あります。例えば弊社の健康経営推進チームは手あげ制かつ事業部横断で構成されるため、普段仕事を一緒に行わないメンバーとのコミュニケーションが促進されています。健康経営だけではなくお互いにどのような仕事をしているのか、一緒にできることはないかといった話題に発展することも多く、健康経営を介した良いコミュニケーションの場であると感じています。コミュニケーションの促進が従業員の活力向上や生産性の向上等の組織の活性化をもたらし、成長ポテンシャルを向上させ、イノベーションを創出し、業績向上や企業価値向上へとつながることが期待されます。
また、健康経営推進企業では、従業員数50名未満の企業や事業所でもストレスチェックが実施されるようになってきたことに伴い、ストレスチェックの集団分析結果を職場環境改善に活用する事例も増えてきました。どちらかというとマイナスからゼロの環境改善活動を多く目にしてきましたが、今後は健康経営施策と合わせてゼロからプラスの環境改善施策も増えてくるのではないかと期待しています。

健康経営が企業外部にもたらすメリット
① 企業イメージ・ブランド価値の向上
健康経営優良法人に認定された企業は、経済産業省のホームページに社名が掲載されます。また、認定の証として付与されたロゴマークは、広報活動に広く利用できるので、健康経営に積極的に取り組んでいる証として、顧客や取引先、求職者などに対し自社のイメージアップを図れます。ロゴマークのついた名刺をいただくことも年々増えてきています。
上述の通り、健康経営優良法人の認定数は年々増加しており、特に中小企業では2017年に318法人だった認定数が、2024年には16,733法人にまで急増しています。さらに2025年には19,796法人が認定され、この数年で認定企業数が一気に増えていることがわかります。企業間の競争や人材獲得難が激化する中、健康経営優良法人の認定は採用活動を筆頭に企業の差別化要因として機能し、企業価値の向上に貢献しているのではないかと考えています。
② 取引先や金融機関からの評価向上
健康経営優良法人に認定されると、自治体や金融機関において、貸付利率の引き下げや特別利率での貸付、補償料の減額・免除といったさまざまな優遇制度があります。具体例として、日本政策金融公庫では「働き方改革推進支援資金」において、健康経営優良法人認定を受けた企業に対して特別利率で融資を提供しています。また、株式会社日本政策投資銀行(DBJ)では「DBJ健康経営(ヘルスマネジメント)格付」を導入しており、健康経営に積極的に取り組む企業に対して、その評価に応じた融資条件の優遇を行っています。後述しますが、例えば花王株式会社はDBJ健康経営格付において最高ランクの格付けを取得しており、これに基づく融資も受けています。
こういった金融面での優遇や資金調達の面で有利になるだけでなく、取引先との新規契約や契約更新の際にも、健全な経営を行う企業として信頼を得ることができると考えられています。
③ 投資家からの注目(ESG投資の観点)
投資家視点では、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の観点からも企業を評価するESG投資が注目されています。ESG投資のうち健康経営は、社会(S)の観点から評価される重要な要素です。
特に近年、人的資本経営における情報開示の重要性が高まっており、健康経営の指標はその重要な構成要素です。経済産業省が推進する「人的資本可視化指針」では、人材戦略やエンゲージメント、健康管理・安全衛生などが主要な開示項目として位置づけられています。健康経営優良法人認定の取得は、これらの開示項目に対する企業の積極的な取り組みを示す客観的な指標となり、投資家からの評価向上につながると考えられています。
健康経営優良法人はもちろん非上場企業でも認定を受けることができます。将来的にIPO(株式公開)を検討しているのであれば、健康経営優良法人であることが投資家からの高評価につながる可能性を高めると考えられます。特に上場審査においては、サステナビリティへの取り組みが重視される傾向にあり、健康経営への取り組みはその一環として評価されると考えられます。
健康経営の取り組みが企業価値向上につながっている事例のご紹介
認定取得企業の事例
健康経営の取り組みが企業価値向上につながった具体例を企業内部・外部へのメリットという観点でご紹介します。(*弊社のご支援している企業ではありません。あくまで公開データより調査した内容です。)
花王株式会社様
花王株式会社は、健康経営に優れた上場企業として、経済産業省および東京証券取引所の「健康経営銘柄」に複数年連続で選定されている代表的な企業です。同社は2008年に「花王グループ健康宣言」を発表し、その後も継続的に健康経営を推進されています。
〈企業内部へのメリット〉
同社では中期経営計画「K25」達成に向け、「Kao GENKIプロジェクト」を推進されています。公式サイトによると、全社的に健康経営を進めるために「各事業場や支社に『健康実務責任者』『健康実務担当者』を配置し、産業保健スタッフと連携」することで、きめ細かい健康管理を実現しています。また、2009年度から運用している健康づくりマネジメントシステムでは「個人が特定できない形で健康データ(問診・健診・就業・疾病等)を統計的にまとめ、全国19カ所の健康相談室にも提供することで、エリアごとの実態に応じた企画立案・実施を可能に」しています。これらの取り組みにより、社員の健康リスク改善と医療費適正化を実現しています。まさに組織の健康課題をデータで捉え可視化することを実践されており、その取り組みは大変興味深いです。
〈企業外部へのメリット〉
特筆すべきは、同社が株式会社日本政策投資銀行(DBJ)から「DBJ健康経営(ヘルスマネジメント)格付」において最高ランクの格付けを取得し、それに基づく融資を受けていることです。公式サイトでは「花王(株)に対し、『DBJ健康経営(ヘルスマネジメント)格付』に基づく融資を実施-最高ランクの格付を付与・特別表彰を実施-」と発表されており、金融機関からも高い評価を受けていることがわかります。これは同社の健康経営の取り組みが、ESG投資の観点からも評価され、具体的な金融上の優遇として実を結んでいるこう事例であると考えご紹介させていただきました。
WellaboSWPによるサポート方法
健康経営優良法人認定取得を目指す企業にとって、効率的な健康管理システムの導入は重要な鍵となります。株式会社メディヴァと株式会社オネストが共同開発した健康経営DXサービス「WellaboSWP」には、健康経営優良法人認定取得にも活かすことが可能な、健康経営推進をサポートする多彩な機能が備わっています。
健康管理システムWellaboSWPの特徴
WellaboSWPは健康管理システムとオンライン健康管理室ウェラボによる運用を中心に、産業医、保健師の訪問や健康診断結果データ化サービスなど幅広くサポートしています。健康経営の土台となる健康管理を「システム」と「産業医・保健師の運用」でサポートするDXソリューションサービスとして、以下の特徴を持っています。
- 健康データの一元管理:
健康診断結果のデータ管理、事後措置(就業判定・受診勧奨) - 長時間労働者管理:
勤怠システムと連携した過重労働対策 - ストレスチェック機能:
57項目・80項目に対応した実施・分析機能。独自質問可。 - 休復職管理:
休復職者の診断書、休職機関満了日等の管理 - 健康課題の可視化:
定期健康診断受診率や精密検査受診率、ストレスチェック受検率など20項目以上のデータ表示
特にダッシュボード機能では、健康課題を簡単に抽出でき、健康経営度調査で求められるデータにも対応しているため、集計作業の工数削減にも貢献します。
AI-OCRによる健康診断結果のデータ化(WellaboSWPデジパスPlus)
WellaboSWPの大きな特徴として、紙の健康診断結果をデジタル化するAI-OCRサービスがあります。このサービスを利用することで以下のメリットが得られます。
- 紙の健康診断結果を高速・高精度でデジタルデータ化
- データ化コストの大幅削減(業界相場の約1/6)
- 納期の短縮(最短2週間程度)
- 健康経営優良法人申請に必要なデータの効率的な整備
このAI-OCR技術により、健康管理業務を効率化し、健康経営優良法人認定取得に向けた取り組みをスピーディに進めることが可能になります。
産業医・保健師による健康管理サポート
WellaboSWPでは、システム導入だけでなく、専門家による健康管理サポートも提供しています。
- オンライン健康管理室ウェラボ:
健康管理システムWellaboSWPを活用して、産業医と保健師に健康管理を任せることが可能 - 産業医選任サービス:
法令に基づく産業医の選任と活動をサポート - 保健師訪問:
事業所訪問による健康相談や保健指導の実施
健康管理業務は人事総務担当者にとって負担の大きい業務ですが、自社雇用の経験豊富な産業医と保健師に健康管理業務を一任できるため、本来の業務に集中できるようになります。特にオンライン健康管理室ウェラボはリソースの少ない中小・中堅企業での導入が増えています。
健康経営優良法人認定取得支援
WellaboSWPは、健康経営優良法人認定の申請に必要なデータ収集から調査票、申請書作成までをトータルでサポートします:
- 健康診断受診率や有所見率などの自動集計
- ストレスチェック実施率や高ストレス者割合の算出
- 認定要件に沿った健康施策の提案と実施支援
- 健康経営度調査表、申請書類作成のアドバイス
豊富な支援実績に基づいたノウハウにより、初めて申請する企業でも安心して健康経営優良法人認定取得を目指すことができます。
まとめ
健康経営優良法人認定の取得は、企業にとって多くのメリットをもたらします。健康経営を実践する企業は、従業員の活力向上や生産性の向上等の組織の活性化を実現し、成長ポテンシャルを向上させ、イノベーションを創出することで、業績向上や企業価値向上へとつながることが期待されます。そのためには健康経営優良法人取得を目的とするのではなく、あくまで企業理念達成のための健康経営推進の手段とすることが肝要です。
また健康経営優良法人認定取得を目指す企業にとって、健康管理や健康経営のDX化は効果的な推進のためにも重要な位置付けとなります。WellaboSWPの健康管理システムとオンライン健康管理室は強力なサポートツールとなると私たちは考えています。WellaboSWPは健康管理システムとオンライン健康管理室ウェラボによる運用を中心に、産業医、保健師の訪問や健康診断結果データ化サービスなど幅広くサポートしています。健康経営のコンサルティングやヘルスリテラシー向上施策も相談可能で、企業の課題に応じた適切なサービスを組み合わせて最適なプランを提案します。
健康経営は単なるコストではなく、将来的な企業価値向上のための重要な投資です。健康経営優良法人認定取得を通じて、従業員の健康と会社の成長を両立させ、持続可能な企業経営を実現しましょう。
参考資料
経済産業省「健康経営優良法人認定制度」
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/kenkoukeiei_yuryouhouzin.html
経済産業省「健康経営優良法人2025」認定法人が決定しました(2025年3月10日)
https://www.meti.go.jp/press/2024/03/20250310005/20250310005.html
健康経営優良法人認定事務局ポータルサイト「ACTION!健康経営」
https://kenko-keiei.jp/
花王株式会社「花王グループ健康経営のご紹介」
https://www.kao.co.jp/genki/kenkoukeiei/introduction/
経済産業省「健康経営の推進について」(令和4年6月)
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/downloadfiles/kenkokeiei_gaiyo.pdf
花王株式会社「8年連続で「健康経営銘柄」に選定」(2022年3月9日)
https://www.kao.com/jp/corporate/news/business-finance/2022/20220309-001/
執筆・監修
WellaboSWP編集チーム
「機能する産業保健の提供」をコンセプトとして、健康管理、健康経営を一気通貫して支えてきたメディヴァ保健事業部産業保健チームの経験やノウハウをご紹介している。WellaboSWP編集チームは、主にコンサルタントと産業医・保健師などの専門職で構成されている。株式会社メディヴァの健康経営推進チームに参画しているものも所属している。