コンサルタントが考える健康経営に役立つ健康管理システムの選び方

健康経営時代における健康管理システムの重要性
2025年3月12日に令和6年度健康経営優良法人が発表されました。大規模法人部門、中小規模法人部門ともに昨年度を上回る法人(大規模法人部門:3,869社、中小規模法人部門:20,267社*)が健康経営に取り組まれている結果となり、健康経営への注目度が依然として高いことがわかります。
*第2回健康経営推進検討会 事務局資料① 2025年3月18日 経済産業省より
健康経営を効果的に推進するためには、健康経営の土台となる健康管理が非常に重要で、健康管理を適切に行うとともに、個人の健康状態のみならず組織の健康状態を正確に把握し、適切な施策を講じることが不可欠です。一方でその健康状態の把握にはこれまでデータ化、クレンジング、可視化といった作業が専門職や担当者の手作業で行われていることが多く、莫大な時間が費やされてきました。また専門職や担当者によって見せ方が異なってしまうことも問題でした。このような問題を解決するのが「健康管理システム」です。健康診断結果の一元管理やストレスチェック結果の分析、受診勧奨の効率化やデータの可視化など、健康管理システムはデジタルで健康情報を管理するだけではなく、企業の健康経営を支える重要なツールとなりつつあります。
私たちが産業保健・健康経営コンサルティングを10年以上実践する中で、健康管理システムの選定のご相談も数多くいただいてまいりました。というのも、非常に多くの健康管理システムが存在し、それぞれに特徴があるため、自社に最適なシステムを選定することは容易ではないからです。本記事では、我々の10年、100社以上に及ぶ産業保健・健康経営のコンサルティング経験に基づき、企業が健康管理システムを選ぶ際の重要なポイントを解説します。
健康管理システム導入の背景と失敗学

健康管理システム導入の背景
健康経営を積極的に推進する企業が健康管理システムの導入を進める背景には、以下のようなものがあげられます。
戦略的な健康経営の実現:
健康経営を推進する上では従業員のニーズ・健康課題に応じた施策実行とアウトプットに対する効果・成果測定が必要となります。そのためには従業員と組織の健康状態を容易に可視化し、PDCAサイクルを回せる体制構築が重要です。従来はエクセル等を利用して産業保健スタッフが可視化をしたり、健康保険組合が発行するスコアリングレポートを利用していましたが、より企業の状況に合わせた分析をするためにも健康管理システムが求められています。
法令遵守と業務効率化の両立:
健康経営に産業保健スタッフが参画することが求められるようになってきていますが、実態として産業保健スタッフは従来からの法令によって定められている健康管理の実務を回すことで手一杯のことがほとんどで、健康経営への参画や健康経営の指標となるデータの可視化については二の次となってしまうことが現状です。特に工数のかかるデータ整理と分析、健診事後措置がシステムによって効率化されれば、産業保健スタッフも健康経営に参加しやすくなると考えられています。
多様な働き方への対応:
テレワークやフレックスタイム制など働き方の多様化に伴い、時間や場所を選ばない働き方が求められていますが、健康管理をアナログで実施する場合にはセキュリティ等の問題から実現が困難でした。最近はクラウド型の健康管理システムが主流となっており、情報セキュリティを中心に利用条件を整備することで、健康管理に従事するスタッフの働き方にも柔軟性が生まれてきています。
健康管理システム導入の失敗学
健康管理システムの導入は、適切な選定と運用設計がなければ、期待した効果を得られないばかりか、新たな問題を生み出す原因ともなります。以下では、健康管理システム導入における典型的な失敗パターンを解説します。
「データの箱」に終わるシステム:
人事担当者や産業保健スタッフによる運用面を十分に考慮せずシステムを選定してしまうと、せっかく導入したシステムが実運用にマッチせず、単にデータを格納するだけの箱になってしまうことがあります。健診データを電子化して保存できても、データも運用できず、施策立案や効果測定のプロセスが設計されていなければ、高価なデータ保管庫となってしまうのです。
コスト最優先の選択がもたらす隠れた負担:
初期導入コストや月額費用の安さだけで選んだシステムが、担当者や産業保健職に大きな運用負担をもたらすことがあります。例えば健康診断結果をデータ化するのに3ヶ月以上かかってしまっている、データ投入のための項目の並び替えを担当者で実施するための負担が大きいなどの問題が生じ、結果的にシステムを導入したら担当者の負担が増大したという事例が散見されています。上述の箱のエピソードにもつながりますが、中にはシステムを導入したのにも関わらず、紙で運用し最終的な結果のみをシステムに投入しているといった事例もありました。
数値化・スコア化の弊害:
健康状態の安易なスコア化や数値化は一見すると、従業員にとって分かりやすく行動変容に繋げやすいといったように見えるかもしれませんが、かえって従業員の不安を煽る結果となることがあります。特に、科学的根拠が不十分なスコアリングや、フォローアップ体制が整っていない状態での健康リスク通知は、従業員の健康不安を増大させ、かえって生産性低下を招くことがあります。
これらの失敗事例から学び、真に効果的な健康管理システムを選定するためのポイントを、以下で詳しく解説します。
コンサルタントが考える健康管理システム選定の3つのポイント

ポイント1:現在の運用フローとの親和性と導入サポート体制
健康管理システムを導入する際、最も重視すべきポイントの一つが、現在の健康管理業務の運用フローとの親和性です。健康管理システムには一定程度の運営会社が想定した運用に合わせて構築されていることがほとんどで、想定されていない運用に対しての柔軟性はシステムや運営会社の考え方によって異なります。システムに運用をあわせるのか、または運用にシステムを合わせるのか、さらにシステムに運用を合わせる場合に許容できることとできないことは何かといった観点でシステム選定をすることが重要です。
<チェックポイント>
- 現行の運用フローへの影響:
現在の健康管理業務の流れをどの程度踏襲できるか、または変更できるか。あるいは改修、オプションで対応できるのか。 - 運用変更の範囲と影響:
システム導入によってどの業務がどの程度変更されるのか、その影響範囲は明確か。 - 運用構築のサポート体制:
システム提供だけでなく、業務フロー設計から運用定着までをサポートする体制を持っているか。産業保健や健康管理についてどの程度理解や経験があるか。 - コンサルティング能力:
健康管理の専門知識を持ったコンサルタントが、運用の最適化について支援できるか。
システム導入によって、全ての業務をデジタル化できるわけではありません。まずはシステムが想定している業務フローを確認し、何がどのように変更されるのか、あるいは変更する必要があるのかを整理する必要があります。この際、健康管理システムを多用するであろう、健康管理担当者、産業保健職それぞれの業務への影響度を事前に評価することが重要です。評価のポイントとなるのは、どうすれば導入しようとするシステムを利用できるのかという観点で議論をすることです。これができないからダメ、あれができないからダメとシステムを評価すると、一向に自社に導入できるシステムが見つかりません。この部分は今の運用のままだと難しいけど、クリティカルではなくて、このように運用を変えれば負担なくできるよねといった文脈で検討することで、従来の運用と比較してより効率的な運用を実現することもできたりします。またそのような導入を検討しているシステムのサポート部門と一緒に行うことができるかも重要な視点となります。
ポイント2:システムを利用するための「準備」で大きな工数を取られないか
健康管理システムを導入された企業様から「システムは使いやすいが、使えるようにするための準備が思ったよりたいへんで手が回らない」、「自社でやらなければいけない要求事項が多い」といった声をお伺いすることがあります。この準備とは初期導入だけをさしているのではなく、毎月発生する従業員の異動、組織変更、残業データの取り込みや、健康診断結果を取り込むためのデータ作成などが該当します。
<チェックポイント>
- データ取り込みの負担:
データの取り込みは誰が担うのか。取り込みに際し必要な作業は何か - 初期設定の複雑さ:
初期設定の平均的な期間と作業内容。初期設定での要求事項は何か - 運用開始までの期間:
開始したい時期に余裕を持って間に合わせるためにも早めに確認をしておく
健康診断結果のデータ取り込みは、健康管理担当者にとって大きな業務負担になることが多いです。この作業が自社担当者の負担になるのか、システムベンダー側がどの程度サポートしてくれるのかは明確にしましょう。例えば紙の健康診断結果のデータ化には、対応可否も含めてどのように対応できるか、健診機関から納品されたデータを、システム取り込みの仕様への変更はどのように対応できるかは必須の確認事項です。一部のケースでは、健康診断データ化に対応しているものの納期が長く、健診受診から3ヶ月以上経過した後にシステムに反映されることがあります。また、システムが要求するデータに対応するために並び替えやデータ入れ替え作業が複雑であり、その結果担当者レベルで作業が停滞する場合がありますので注意が必要です。
また初期設定や運用開始までの期間の確認も重要です。組織情報や従業員情報の登録方法、各種マスタ設定の複雑さ、他システムとの連携設定などの確認は必須です。特に、組織変更が頻繁にある企業では、組織情報の更新作業が容易かどうかも重要なポイントです。また初期導入にかかる時間=運用開始までの期間となります。システム導入に際し、健康診断事後措置から始めていきたいと考えられることが多く、健診シーズンが近い場合にはどの程度の期間があれば、余裕を持って導入できるのかを早めに確認しておくことをお勧めします。急いで短期間で導入すると、システム利用について担当者、従業員の理解や周知が追いつかず準備不足となり、さまざまな問題が発生することがあり注意が必要です。
ポイント3:システムでやりたいことが障害なく実現できるか
健康管理システムの導入の背景で述べたように、健康経営の文脈における健康管理システム導入の背景には戦略的な健康経営の推進や、足元の健康管理の徹底と効率化、多様な働き方への対応などが考えられ、これらの背景は企業によって異なります。導入をご検討される場合には、システムを利用して実現したいことを明確にし、かつ優先順位をつけて確認するのが良いでしょう。ここではこのような導入背景を実現する上で共通して確認が必要なポイントをお伝えします。
<チェックポイント>
- データ分析機能の充実度:
自社の健康経営や健康経営度調査で要求されるデータ分析が可能か - 運用サポートとシステム改修への対応:
やりたい分析を実現するための相談ができる体制があるか - ユーザーインターフェースの使いやすさ:
データ蓄積を支える日常業務の負担にならないか - セキュリティ対策:
データを蓄積しても安心なセキュリティ対策が講じられているか
健康経営を実現する上で健康管理システムが有用となる一つのポイントとして、蓄積されたデータを分析し、課題を可視化することです。自社や健康経営度調査が必要とする分析・可視化機能が標準で備わっているかを確認しましょう。健康診断結果だけでなく、ストレスチェック結果や労働時間データなど、複数のデータを組み合わせた分析が可能かどうかも重要なポイントとなります。また、システムで分析できない場合には任意でデータを出力し、分析できるような機能があるかを確認することも重要です。
機能が充実していても、使いにくさや不十分なセキュリティ体制なら意味がありません。機能に使いにくさや遅さがあると、1日の業務の中ではさほど気にならなくても、年にすると大きな損失となり、またデータ投入に手間暇がかかるとデータ投入が十分に行われず、必要な分析ができないこともあるため、可能ならトライアルやデモ環境を利用してみて使いやすさを確認し、セキュリティチェックシートを用意して確認するのが良いでしょう。
執筆・監修
WellaboSWP編集チーム
「機能する産業保健の提供」をコンセプトとして、健康管理、健康経営を一気通貫して支えてきたメディヴァ保健事業部産業保健チームの経験やノウハウをご紹介している。WellaboSWP編集チームは、主にコンサルタントと産業医・保健師などの専門職で構成されている。株式会社メディヴァの健康経営推進チームに参画しているものも所属している。